わが国政府の、50兆円枠の株価対策の帰結(吉田繁治)−50兆円枠で株

わが国政府の、50兆円枠の株価対策の帰結(吉田繁治)−50兆円枠で株を買うという政府の愚策は、ヘッジ・ファンドに利益を与えて終わる ビジネス知識源:吉田繁治
<Vol.235:わが国政府の、50兆円枠の株価対策の帰結>
http://archive.mag2.com/0000048497/index.html

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■6. 50兆円枠で株を買うという政府の愚策は、ヘッジ・ファンドに利益を与えて終わる

以上のような、解約に迫られている状況で、ヘッジ・ファンドは、日本株時価で、70兆円分(25%)を持ちます。

日本政府は50兆円枠で、
(1)下げれば買い支える、
(2)上げるために買うと表明しています。

こうした買いの手の内を、ガイジン・ヘッジファンドに見せることは、株式投資の世界では愚かです。政府は、政府資金(要は国民のマネー)で愚劣な損をします。

結論は、言うまでもないでしょう。

【結論】
今70兆円の日本株をもち、解約を迫られている英米系ヘッジ・ファンドは、政府機関の資金投入で、株が、ある程度持ち上がったというピークを判断し、売りに出るでしょう。

売りは、利益を出してあるいは損を少なくして、行うものだからです。

●背景になる理由は、ファンド・マネジャーは「ある程度は、投資元本の回復をして、投資家の解約申込みに応じなければならない」からです。

昨年来の政府は年金資金を11兆円使い、09年4月以降は、政府機関に保証し政府が持ち上げる株価は、いずれ、70兆円の株をもつヘッジ・ファンドから売られ、株を買った政府機関が、損をします。これが結論です。

(注)当然に、政府資金で高くなった株を売る「空売り」を含めてもいい。ヘッジ・ファンド同士で株を借り貸しすれば、空売り規制も逃れることができます。

以上のように、政府が手の内を見せた株の買いは、容易に、ヘッジ・ファンドに利益を与えます。

株価下落の損は、政府機関が被りますが、その損を政府が保証すると言うため、政府機関は必要な「投資の吟味」をしません。実に、愚策です。

財務省幹部は、何を、どう考えているのか? 政府機関が株を買うのなら、誰がどう買ったか、分からないように買うべきです。選挙民向けに、50兆円枠での買いを表明してしまったので、後の祭りですが・・・

ヘッジ・ファンドが持つ70兆円の株は、巨額です。10兆円分でも売りに出れば、もともと1日に1.4兆円くらいしかない薄商いの日本市場の株価は、ひとたまりもない。

薄商いの理由は、多くの人が、株を買っていないからです。政府資金を受けた投資信託(元は年金基金)の買いだけが、目立っていた。

わが国の個人にも、このヘッジ・ファンドの売りを真似た行動も出るでしょう。

●政府の株買いは、いずれ「終わらざるを得ない」。

政府は、どんなに、損をしても、どんどん買うというわけにはゆきません。公金、つまり政府資金が流失するからです。政府には、説明責任があります。

●ヘッジ・ファンドは、「世界が楽観的になって、株価が上がる時期」を狙っています。実体経済が回復に向かわない限り、株価は上がらないのです。政府策は、一時的なものです。

「政府機関が買って、株価が持ち上がれば、解約を迫られているヘッジ・ファンドに、お土産をつけて、送り出すことにしかならない」

一刻も早く、財務省は、株の買い方で、方針転換をすることです。買うのが、悪いことではない。

アナウンスした上での買い方が、株の国際化が進んだ今は、最悪なのです。財務省は、政府は万能と錯覚しているのでしょうか? 相手は、ヘッジ・ファンドです。

●1990年代とは異なります。1990年代は、財務省の株価PKOの相手は、財務省の幹部が頭取に電話をかけて言えば、すぐ従う国内の金融機関でした。

そのため、株の買い支えをアナウンスしてもよかったのです。その買い支えによる利益は、国内の金融機関に行きました。今回は、違います。

【結論】
繰り返しますが、今度の政府の相手は、70兆円もの日本株をもつ、ガイジン・ファンド(ヘッジ・ファンド)です。ヘッジ・ファンドの手法は、リスクヘッジであり、市場が高く評価しすぎているものを売り、逆に、低く評価しすぎているものを買うことです。

こうした手法に対し、政府が「50兆円の枠で株価を買い支える」と言うのですから、実に簡単に「高すぎる株」を発見できます。

これによってPKOで株に投じた国民の富を、かすめ取られます。

また、世界で、1日の為替市場に投じられる資金量は、数十兆円と言われます。1ヶ月での総計は、おそらく500兆円を超えます。そこでは、政府資金といえども、小さいのです。

【後記】
「日銀しか、大量発行される日本国債の、主な買い手はない。」と世界の金融市場が認識すれば、それは、円の信用下落です。

海外ファンドは、円売りに出るでしょう。日本株を売って、円を手にし、米国へ送金すればドル買い・円売りです。

【記憶事項】
(1)なお、日本にある投資銀行を含む外銀の、総資産のピークは07年2月の59.9兆円でした。09年1月にはこれが38.1兆円に減っています。2年で20兆円の引き揚げ(円売り・ドル買い)があったことになります。

(2)海外及びタックス・ヘブン(租税回避地)が本拠の、ガイジン・ファンドは、わが国では、2008年には、10.3兆円の長期債・短期債・株を売り越しています。このうち、株の売り越しは、7.5兆円分です。これが、昨年秋以後の株価下落の主因でした。

政府が、4月以後、50兆円枠で株を買うことは、また、ガイジン・ファンドに売り越しの利益を与える機会を作ります。

(3)米欧系の、投資銀行(投資家から預託を受けて投資するヘッジ・ファンドと同じ)は、事実上、消滅しました。今、精算売り(ポジション解消)の機会を狙っているのです。この認識は重要です。

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(引用以上)